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June 17, 2008

アダム・スミスの真像

今日は、投資顧問業協会・投資信託協会寄附講座の講師
として大阪大学でヘッジファンドについて話をしました。

そして、その講座の終了後に楽しみにしていたのは、同大学
の堂目卓生先生と初めてお会いすることでした。先生のことを
知ったのは2007年の1月下旬に「やさしい経済学」でたまたま
お見かけしたことでした。一般的に言われるアダム・スミスの
自由市場主義に、ちょっと違和感を感じていたのですが、それを
学術的な局面から分析していただいたことに感銘を受けました。

実は、先生は、私の当時のブログの書き込みを読んでいただいた
ようで、出版された書籍をわざわざご丁寧にお贈りくださいました。
そのお礼を兼ねて、ご挨拶にお伺いしたのです。20080617_smith
アダム・スミス―
「道徳感情論」と「国富論」の世界

これ、お奨めです。

アダム・スミスが提唱した自由市場主義の
バックボーンがここにあります。

好き勝手にやっているのが、自由市場主義ではない
ということがわかります。

例えば、、、、


・「同感」sympathyという原理。
「人間は自分の利益を感がる存在ではあるが、
 それだけではない。人間本性の中には別の
 原理もある。それは何かというと、他人に
 関心をもつということである。人間は、自分の
 利害に関係なくても、他人の運不運、あるいは
 境遇に関心をもち、それを観察することによって、
 自分も何らかの感情を引き起こす存在なのである。」

・「賢人」と「弱い人」
「スミスは、このように、基本的に胸中の公平な
観察者の判断にしたがう人を賢人と呼び、つねに
世間の評価を気にする人を弱い人と呼んだ。」

・「経済発展」
「実は、経済を発展させるのは「弱い人」、あるいは
私たちの中にある「弱さ」である。「弱い人」は、
最低水準の富を持っていても、より多くの富を
獲得して、より幸福な人生を送ろうと考える。
そのような野心は幻想でしかなく、個人の幸福の
程度は、富の増加の後と前で、ほとんど変わらない
ので、「弱い人」は、だまされることになる。しかし
ながら、スミスは、そのような「欺瞞」が経済を
発展させ、社会を文明化する原動力になると考える。」

・「真の幸福」
幸福は平静【tranquility】と享楽【enjoyment】にある。
平静なしに享楽はありえないし、完全な平静がある
ところでは、どんなものごとでも、ほとんどの場合、
それを楽しむことができる。

・「財産への道」、「徳への道」
「「財産への道」は「弱い人」が選ぶ道であり、「徳への道」は
「賢人」が選ぶ道である。「弱い人」は、つねに世間の評価を
気にする人、称賛を欲し、非難を恐れる人であり、「賢人」は
胸中の観察者の評価を重視する人、称賛に値することを欲し、
非難に値することを恐れる。」

しかしながら、私たちが「財産への道」を行くことは、必ずしも
「徳への道」を放棄することではない。富や高い地位を求める
過程の中で、徳や英知を身につけることができるからである。
実際、富や地位を獲得するための、ひとつの有効な方法は、
徳と英知を獲得することである。」

・「祖国への愛」
「スミスは、人間は、全人類の幸福を願い、自分の幸福よりも
全人類の幸福をつねに優先させること、つまり「普遍的仁愛」
【universal benevolence】をもつことができないと考える。」

「私たちは、、日常生活において、特定の人々と繰り返し
同感し合うことによって、その人たちに対して愛着をもつように
なり、彼らや彼女らの幸福を、他の人々の幸福よりも優先的に
願うようになる。」

・「市場」とは
「市場とは、多数の人が参加して世話の交換を行う場である。
したがって、市場は本来、互恵の場であって、競争の場ではない。」

「商業社会は、市場社会と言いかえれてもよいであろう。それは、
愛情や慈恵によって支えられた社会ではない。自愛心によって
支えられた社会である。しかし、市場社会を支えるのは自愛心
だけではない。市場社会はフェア・プレイを受けいれる正義感と
交換を可能にする交換性向、そして説得性向によって支えられている。」

・「資本家」
「第一に、資本家が貯蓄するかぎり、資本、雇用、および生産は
成長し、資本家の貯蓄が大きければ大きいほど、それらの成長
は速いということである。」

「資本家の消費が不変であるならば、税の支払いが小さければ
小さいほど資本家の貯蓄が大きくなる。税によって徴収された
生産物は、主として公務員や軍人の雇用に用いられる。公務員
や軍人は、生産に直接携わる労働者ではないので、不生産的
労働者である。」

・「浪費」
「浪費についていうなら、支出に駆り立てる性向は、現在の
享楽を求める情念である。この情念は、ときには激しくて、
きわめて抑制しがたいところもあるが、一般には瞬間的で、
たまにしか起きない。これに対し、貯蓄に駆り立てる原理は、
自分の状態を改善しようとする欲求である。」

「大国が、私的な浪費や不始末によって貧しくなることは
決してないが、公的な浪費や不始末によって貧しくなる
ことはときどきある。 個人が自分の財産を管理するときに
見られる慎慮と倹約性向や、公共財産を管理する場合には
見られない。自分の財産の管理に失敗すれば、自分の身の
破壊をもたらすのに対し、公共財産―他人の財産―の管理
に失敗しても自分の身の破壊をもたらすわけではないから。」

「長期国債によって資金調達を行う方法をとった国は、すべて、
次第に弱体化していった」(国富論五編三章)

・「自然的自由の体系」
「スミスが考えるのは、優先や抑制の対象を変えることではなく、
優先や抑制自体を廃止することによって、本来の発展経路に
自然に復帰することであった。スミスは、このように実現される
経済システムを「自然的自由の体系」【system of natural
liberty】と呼んだ。」

「優先と抑制の体系がすべて除去されれば、単純かつ明快な
自然的自由の体系が自然に確立される。そこでは、正義の
諸法を犯さないかぎり、すべての人が自分のやり方で利益を
追求することができる。」

「どの産業を優遇し、どの産業を抑制することが社会全体に
とって最も利益が大きいのか、また、そのためには、どのような
具体的な方策をとればよいのか。人間は、これらのことを正しく
判断するための完全な知識をもつことはできない。政府が、
優遇政策や抑制政策を遂行しようとすれば、必ず無数の
迷妄―多くは特定の利害関係者によって吹き込まれる
迷妄―に惑わされるであろう。」

・「体系の人」
「「体系の人」【man of system】とは、現実の人々の感情を
考慮することなく、自分が信じる理想の体系に向かって急激
な社会改革を進めようとする統治者のことである。」

「彼は、チェス盤の上のさまざまな駒を手で動かすのと同じ
ぐらい簡単に、社会のさまざまな構成員を動かすことが
できると想像する。」

「めざす理想が、いくら崇高なものであっても、そこに至るまでの
道が、あまりにも大きな苦難をともなうものであれば、人々は
統治者の計画についていくことができないであろう。体系の人は
このことをわかろうとしない。体系の人は、理想を正しく理解さえ
すれば、すべの人は、理想の達成に対して、自分と同じ情熱と
忍耐をもつはずであると信じて疑わない。しかし、人間はチェス
駒とは違う。」

・「富の機能」
「いうまでもなく、富の主要な機能は、人間を生存させ、繁殖させ、
その生活を便利で安楽のものにすることである。しかしながら、
スミスは、富の中に、それ以上の機能を見出していた。それは、
人と人をつなぐという機能である。」

「スミスにとて、市場は富を媒介にして、見知らぬどうしが世話を
交換する場であった。人間は市場を通じて、自分に特別な愛情
をもっている人以外の人からも世話を受けることができる。」

「また、経済成長とは、富が増大することだけでなく、富んだ人
と貧しい人の間につながりができることw意味する。」

◇ ◆ ◇

この本は出版された二ヶ月間で1万5千冊も売れたようですが、
このような「お堅い」内容のもでも、これほど売れるとは、日本は
捨てたものではないと勇気付けられます。

また、このようにアダムスミスを読むと、私の先祖様が提唱した
論語と算盤」の一致と同じ思想を感じることができます。

現在の市場資本主義のあり方について疑問を持つ人々が少なく
ありませんが、「ポスト市場資本主義」を考える前に、市場資本主義
の原点をもう一度見直す必要があるでしょう。

まさに、温故知新

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Comments

「アダム・スミス」を呼んでいて、たまたま「オルタナティブ投資日記」というブログを拝見し、感銘を受けました。
今後、愛読させていただきたいと思いますので、これからも長くご執筆くださいますようお願い申し上げます。
小生、大胆にもかつてご先祖にあたられる青淵翁の評伝を自分のホームページで勝手に書かせていただいたことがあります。
http://www011.upp.so-net.ne.jp/kaijinkimu/huchiqq.html
まもなく会社も定年になり、少し余裕もできますので、これからさらに青淵翁に学びたいと思っております。
ブログを読ませていただいたことに感謝申し上げますとともに、渋澤健様のますますのご活躍をお祈り申し上げます。


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