ミャンマー DAY5
視察の最終日はヤンゴン市内の国立病院から始まりました。 医長さんは笑顔いっぱい
ですが、責任は重大。ここは、HIV患者の特別病院です。
HIVは免疫力を著しく減少させるので、結核など他の疾患にかかりやすくなります。
ただ、診断されて、ART(抗レトロウイルス治療)によって、概ね支障がない生活を
送れることができます。治療に使われる薬は世界基金の資金によって無料で供給
されています。
しかし、厄介なのは、早期には症状が特に目立たないということです。CD4という
免疫力の数値が350以下になると、他の疾患の感染が高まるので、治療を始め
なければなりませんが、この病院に入院する患者のCD4は50ぐらいだそうです。
政府は建物や人件費などを負担しますが、なかなか薬まで負担できる予算がなく、
世界基金が存在していなければ、このような特別病院での治療は持続することが
できないということが現実です。また、そもそも患者がHIVに感染しているということ
がわかるための簡易キットも世界基金がなければミャンマー社会に供給すること
ができません。
また、「病院」と言っても、日本でイメージしているような清潔なものではありません。
プライバシーも、ありません。視察という言いながら、苦しんでいる患者さんの
スペースにお邪魔をして、心が痛みました。
この病棟は、数年前に日本政府がミャンマーへ寄付したものであり、受付や
相談室などが入っていました。
病院の視察を経て、お隣りの「建物」へ移動して、NGOが運営しているクリニックを
視察しました。国営病院とNGOとの機能のすみ分けはないようです。つまり、政府が
HIV患者向けの施設がなかったので、NGOがこのようなクリニックを運営していると
いうのが今までの状態のようです。国営病院の数やキャパシティが増えてくれば、
NGOの活動を減らすことができるということです。
このNGOは、日本でも有名な国境なき医師団です。
国立病院と比べると、プライバシーがもうちょっと確保されている感じがしました。
ただ、隣同士なのに、国立病院は彼らの視察を許していないようで、お互いから
学ぶというシナジー効果がないことが残念です。
これは、血液検査室。 病院もNGOクリニックも、ほぼ「野外」という感じです。
また、これは池ではありません。病院とNGOクリニックの外は、雨季の溜り水で
囲まれています。日本人感覚の「清潔」というイメージから程遠いですが、命が
関わっているので、ゼロ状態よりマシということでしょう。
午後の視察も、また、強烈でした。Drop-In という施設で、ゲイ、売春婦、麻薬
中毒者へのHIV予防を啓蒙する活動です。行き場所を失った彼ら・彼女たちの
憩いの場でもあります。
夫を亡くし、5歳の子どもを養うために体を売り始めたという女性が自分の
ストーリーを話してくれました。再婚したが、売春していたことが再婚先の
家族にばれて、離婚。家族からも見捨てられ、子供を養うために再び売春へ。
5歳の子は、現在、16歳になっていますが、自分自身はHIV+になっている。。
「この場所が無くならないようにお願いしたい」という彼女たちの願いが、視察団に
重く伸し掛かりました。
遠い国のことであるし、日本国内で財源が必要な社会問題がたくさんあるので、
自分の見回りからやるべし。確かに、そのような側面があるかもしれません。
しかし、たまたま産まれた国や環境が異なるだけで、これだけの別世界がある。
日本が、彼らのためにやれることは有るはずということが、その場にいた視察団
の我々が感じたことだと思います。
世界基金が、今後の3年間で目指しているのは、100億ドルから150億ドルへの
50%増です。その内、米国は50億ドルまでコミットしていますが、全体の1/3
以下という制限もあるので、他の各国が拠出金を増やす必要があります。フランス
は、15億ドルを既にコミット済みで、英国も同じぐらいの水準になるようです。
世界基金が期待しているのは2007年から2012年の平均から比べて(総額と同様の)
50%増です。年間、300億円の予算が必要となる計算になります。かなりの金額
ですが、日本の就業者数の約6000万人が、毎月42円(~年500円)を負担して
くれれば賄われる金額です。
安倍内閣が、胸を張って、世界に伝えるメッセージは何になるのでしょうか。