コモンズ投信の時代をつなぐ長期投資で最も難しい判断はカリスマ経営者が
去った後の評価です。そのトップだけを見ている企業文化を引き続くことは
至難の業だと思います。しかし、しっかりとバトンを受けて、企業価値を更に
高める経営者は、レアですが、存在しています。
そのお一人が、コモンズ30ファンドの投資先のユニ・チャームの高原豪久さん
です。数週間前に高原さんから献本していただいた新著書を拝読しました。

ユニ・チャーム 共振の経営
「経営力X現場力」で世界を目指す
これは、良書です。共感する内容が多く、また、
所々、耳が痛いご指摘もあり、自分自身の
経営者としての考え、行動、指針を確認する
ことができたので、一気に読み終えました。
優れた日本企業の特徴は経営トップと現場の
距離感が近いことだと思っていますが、高原さん
は、ご自身の経営指針としてこの距離を意識的に
縮めていらっしゃるという努力が見えてきます。
付せんとマーカー線だらけになった本から特に印象に残ったところを紹介しますと。。。
「その商品が提供する付加価値(ベネフィット)にはさまざまな種類があり
ます。この付加価値のうち、風土・文化、習慣などの違いを越えて受け入れ
られやすいのは、『不』を解消するもの」
「私の経験では、新規国・地域の開拓には概ね10年はかかります。 しかし、
10年間、くる日もくる日も諦めずに努力し続けると、芽が出て、花が咲き、
実を結ぶ日がやってきます。>」
「『良い商品』、『強い言葉』、『巧みなマーケティング』の3つは掛け算の関係に
あり、どれかが高いスコアを獲得しても、他が欠けていたり、スコアが低かったり
すれば大きな成果は見込めません。」
「二者択一的な選択は、確かに合理的で現実的かもしれませんが、その
選択によって、もっと大切なものを失ってしまっているのではないかと不安
に思います。<中略> 二兎追わぬものは一兎も得ず。」
「ではどうすれば未来を正しく予測することができるのでしょうか。その
ポイントは、発想の転換にあります。先入観を捨てて、未来から過去を
振り返るのです。」
「業績は、計画力と実行力の掛け算で決まります。<中略> 上からの
指示に従えばよいという思考停止に陥らないためにも、自分が実行が
する計画は自分で立てなければならない、同じく立案した計画が自分で
実行しなければならないということも全社員に徹底しました。」
そして、最もしびれた個所は、ユニ・チャーム・ウェイの話でした。
「ユニ・チャームでは、株主総会直後の取締役会で必ず実施することが
あります。それは、全取締役が1年間のコミットメント(目標)を誓い合う
ことです。ユニ・チャームの取締役の任期は1年で、私も含めてコミット
メントの達成率が100%に届かない者には再任はありえません。
<中略> さきほどの『コミットメント』という言葉を、ユニ・チャームでは
次のように定義しています。 『命がけ』の約束の意味。挑戦目標・試行
目標とは異なり必達目標である。」
実は、自分の最近の謎は、高原さんのような高いレベルを求める経営者が
何故、社外取締役を受け入れていないことでした。しかし、この『コミットメント』
への要求にヒントが見えてきました。このようなレベルの『コミットメント』に
社外の人間へ要請できるかというかという疑問があるのかもしれません。
もちろん、社外取締役だから高いレベルのコミットメントが出来ないということなく、
その人次第だと思います。そう意味では、「世襲」だからということだけで批判的
なレッテルを貼ることは正しくないと高原さんはお見事に証明されています。
私が高原さんと最初にお会いしたのは25年ぐらい前の夕食会で、「ユニ・
チャームの創業者のご子息」と紹介されました。大変失礼ながら、当時、
高原さんが日本を代表する大物経営者になられる姿は見えませんでした。
2001年に高原さんが39歳で社長に就任されたときに、もし、コモンズが
存在していてユニ・チャームを保有していたら、、、たぶん、売却していた
でしょう。だから、見えない未来を見ることの難しさを痛感すると同時に、
企業の進化の可能性は「見えない価値」に宿っていることを確信しました。