今日は色々と良い刺激を受けたセミナーに参加しました。
オランダ王国と慶應義塾大学が共催した年金セミナー
The Financial Sustainability of Ageing Societies
~The Future of Pensions and the Role of the Private Sector~
私はCorporate Social Responsibility in Pension Management
という分科会でオランダの公的年金を運用するAPG Asset
Managementのサステナビリティとガバナンスを担当する
Y.K.Parkさんと一緒のトークセッション。
オランダの人口は約1680万人で日本の一割強に過ぎませんが、
APGの資産運用残高は€3400億(45兆円)で日本のGPIF
(約140兆円)の三割強という世界最大級の機関投資家です。
オランダでは月収の15~20%を年金に給付することが義務
付けられているようなので、それがAPGの巨大化につながった
のでしょう。)
Parkさんの仕事のほとんどは、投資先の会社のガバナンスを
監視しているようで、彼女からの承認がないとポートフォリオに
組み込まれることがないようので、APGのESG(環境、社会、
ガバナンス)の取り組みは筋金入りです。
Parkさんによると、「エンゲージメントとは投資先企業で問題が
生じたときに直ぐ売却するのではなく、問いかけの対話に努める」
などコモンズ30の投資理念とシンクロしていることが多いと
感じて、心強かったです。
最近、会計不祥事件を起こしたT社に対しては、機関投資家の
グループに声掛けするから対話してくれと会社に依頼したところ
断れたと呆れていました。
ESG関連で問題が生じたときの対話を通じて改善を求めるが
APGの売却ルールは二年間粘っても変化がないときに縁を
切るようです。
APGのCEOのDick Sluimersさんの話もかなり刺激的で面白かったです。
賦課方式(Pay As You Go) 年金給付であろうが、積立方式(Funded
System)年金給付であろうが、給付金の財源は確保しなければ
ならないが、賦課方式の場合はその財源は国内で生じる保険料に
限るので限界があるが、積立方式であれば投資を通じて国外の
成長の恩恵を被ることもできる。よって、APGは90%をオランダ国外
で運用するようです。
また、APGの「進化」も興味深ったです。
1990年代は90%債券で5%株式の資産配分でしたが。それが、
2000年には50%債券で40%株式になり、
現在では31%債券、34%株式、そして、35%オルタナティブ(PEファンド、
ヘッジファンド、インフラストラクチャーファンドなど。)
つまり、年金基金は長期的な資金なので流動性が低い投資に
配分して、超過リターンを狙うことができるという考えです。
かなり、洗練されたプロの機関投資家です。
GPIFの最高投資責任者の水野弘道さんが長期投資に取り組んだ
ときに、短期的な市場変動に不安を感じる世間にどのように対応
するのかと問いかけたところ、Sluimersさんは、「年金運用は
マラソンなので、いちいち腕時計を見る必要ないと、1年ぐらいの
実績には興味なく、5年もあまり興味ない。10年ぐらいになってくる
とやっと興味が持てる。。。もちろん、そのためには信用が必要
だけどね」という、これもまた確たる長期投資のコミットメントを感じ
ました。
また、ESGに関しては、長期的には良い結果を還元している
というコメントがありました。いやはや、世界最大級の長期
投資家の勇ましさは素晴らしいものがあります。
それにしても、このランキングを見ると、日本の年金制度は
Adequacy(充実性)、Sustainability(持続性)、 Integrity(確実性)
の側面では下から数えたが早く、中国やインドネシアより下!
のようです。やっぱり、これは年金制度だけに自分の未来の
豊かな生活を任すことなく、日本人の現役は自分自身の意志で
長期的なつみたて投資に取り組みべきという、はっきりとした
メッセージが読み取れますね。

クロージングには訪日中のオランダのルッテ首相のご挨拶が
ありました。質疑応答の時間があったので、このセミナーの
後に安倍総理との会見が予定されていたようなので、こんな
質問をしてみました。
「日本政府はTPPの完結に取り組んでいますが、農業の関係者
からの反対があります。また、農業分野は今回のセミナーの
テーマである高齢化に悩まされています。世界第二の農産物
輸出大国(そうなんです!米国の次)のオランダとして、何か
安倍総理にアドバイスいただけることありますか?」と。
お答えは、極めて政治家っぽく「我々も農業政策で色々な過ちを
起こしていた。その過ちを共有し、お互いから学べ合うことが
たくさんあると思う。」 まだ、40代でナイス・ガイという印象でした。
